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輪るピングドラムの二次創作テキストブログ。 冠晶中心に晶馬総受け。
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2012/01/16 (Mon)                  カウントダウン2
病気晶ちゃん続き、2つめ。

ぐずぐずしている暇は無かった。もう、信用できるかどうかとか、そんなことを言っている余裕は、高倉家にはこれっぽっちも残されていなかった。

 昨晩の電話を受けてから、冠葉は取り乱しそうになる心を落ち着かせることに必死だった。陽毬から電話の内容を聞いた後、居ても立ってもいられず病院に駆け出そうとした冠葉を、陽毬がやんわりと宥めるように、押し留めた。
「看護師さん、もう状態も落ち着いたって言ってたし、今から来なくても大丈夫って言われちゃったから、今日はもう寝ちゃおう?」
 と、陽毬だって真っ青で泣きそうな顔になりながら、しがみつくように抱きしめられて、冠葉ははっと我に帰った。そうだ、陽毬だって、絶望の淵に立たされながらも必死に耐えているのだ。陽毬を守ってやれるのは、今は自分しかいないというのに。
「そうだな、ごめん陽毬」
 小さく、ありがとう、と付け足して、冠葉はしがみついている陽毬をそっと撫でた。陽毬はいつだって、こうして冠葉を救ってくれるのだ。冠葉のギリギリの日常は、陽毬がここにいてくれるからこそ、何とか成立しているのだろう。陽毬がいるから、まだ冠葉は、自分を保ってこの家にいることが出来る。
「明日は、やっぱり私も病院行くね」
「そうだな、二人で行こう」
「うん。朝、早起きして行こうね」
 冠葉の胸元で、見上げながら小さく笑った陽毬の顔が、今にも泣き出してしまいそうに見えて、そのちぐはぐなコントラストが、冠葉の目にまざまざと焼き付いた。陽毬のためにも、自分のためにも、絶対に晶馬を死なせてなんかなるものか。入院してからずっと諦めきったような顔をしている晶馬が、何を考えているのかなど知りたくもなかったけれど、そんなものは、関係ないのだ。絶対に、手放したくなんてない。


 そういう訳で、冠葉は今、一人で病院の中にある一室へと向かっていた。昨日の夜に約束した通り、冠葉にしては朝早くに起きて陽毬と一緒に家を出たのだけれど、「悪い、どうしても学校に行かなきゃならない用事があるから、陽毬は先に病院に行っててくれ」と言って、陽毬と別れた。無論、学校に用事があると言ったのは単なる言い訳であり、冠葉の行き先も陽毬と同じく、晶馬が入院している病院だった。
 ただ、これから会おうとしている人物に、なぜか陽毬を会わせたくないと思ったのだ。話を聞く限りでは、おそらくまともな人間だとは思えなかったせいもある。それに、陽毬まで危険な道に進むようなことは、絶対にさせたくなかったし、綺麗なままでいて欲しかった。そうして、陽毬を先に病院に行かせた後、少し遅れて冠葉も同じ道を歩いているのだ。


 一週間前に晶馬の余命の宣告を受けた後、冠葉が必死になって何らかの手段はないものかと探した結果、唯一見つけた手がかりが、夏芽家だった。少し前に、あそこの家のまだ小さい男の子が、治る見込みのない難病から完治したらしい―――そういう噂を、耳にしたのだ。
 それは願ってもない、ずっと探し求めていた手がかりに違いなかったけれど、それが夏芽家であったことが、冠葉を躊躇させた。出来ることなら、夏芽の家とは、関わりたくはなかったのだ。まだ両親が家に居た頃から、大人の事情というものは子ども達には何も伝えられなかったけれど、おそらく夏芽と高倉は切っても切れないような関係なのだと、幼いながらも勘付いていた。
 さらに冠葉は、なぜかずっと夏芽の娘に付きまとわれているのだ。夏芽は権力も財力も備えた、いわゆる資産家の家だったから、きっと冠葉が助けを求めたら、あらゆる面での援助を惜しまずにもらえるだろう。それでも冠葉は、夏芽の家がどうしても好きにはなれなかった。両親が失踪したことも、夏芽の家と関係があるのではないかと、冠葉は密かに疑っていたことだってあるのだ。

 そういうことで、冠葉は夏芽家に助けを求めることを躊躇っていた。しかしそんな躊躇も、冠葉は一瞬で振り切った。何だってやる、と決めたのは自分なのだ、今更何を迷う必要がある。
 そうして何年かぶりに夏芽家の敷地に足を踏み入れたのが、三日前のことだ。夏芽家の娘である真砂子の部屋に通された冠葉は、挨拶も何も無しに、「お前の弟の命を救った方法を教えろ」と切り出した。こんな所に長居する理由なんて何も無かったから、さっさと用件を済ませてしまおうと思っていた。真砂子はというと、窓際のアンティーク調の椅子に腰かけたまま、冠葉の突然の訪問にも何も驚いた様子は無く、悠長に紅茶を嗜んでいた。
 緩慢とした動作で一口紅茶を含むと、それをゆっくりと味わった後、真砂子はようやく冠葉を振り返った。
「貴方が突然ここへやって来たことも、そういうことだろうと思っていてよ。けれども、それを教える訳にはいかないわ」
 そうしてキッパリと、言い切った。真砂子の切れ長の瞳は、冠葉の何もかもを見透かしているようで、けれど、どうして自分の全てを真砂子が知っているのかという理由も容易に想像出来て、冠葉は小さく舌打ちをした。夏芽の家は、いつだって自分達の前に立ちはだかって、邪魔をしようとしてくる。
「教えられない?なぜだ」
「貴方が破滅する未来が目に見えているからよ」
 そう言って、再び優雅な動作でティーカップを口に運ぶ。「そんな所に立っていないで、貴方もお一ついかが?」と紅茶を差し出す真砂子が、少しの時間だって惜しいと感じている自分を、あざ笑っているかのように冠葉は思えた。
「破滅?何のことだ」
「わたくしは貴方の弟や、もしくは妹がどうなろうとも、知ったことではないのよ」
「だから、何のことだ」
 真砂子と上手く話が噛み合わないことは、今に始まったことではない。久しぶりの再会でも、それは何も変わってはいなかった。
 真砂子はこういう風に、人の話なんて聞いていないような、ただ自分の中で完結していることを、勝手に相手に突きつけてくる節がある。そういうものも全て、冠葉の苛立ちを助長させるものなのだ。差し出されたティーカップは受け取らずに、冠葉は真砂子をギロリと睨みつけた。
「だから、わたくしは貴方の兄妹がどうなろうとも、どうだっていいのよ。わたくしはただ、冠葉が居てくれたらそれだけでいいのだから」
「……その二人が居なくなったら俺も死ぬ、って言ったら?」
「それはわたくしが絶対にさせなくてよ」
「いいから答えろよ、時間がないんだ」
 カチャリと、冠葉は隠し持っていた小型の銃を、真砂子の眉間に照準を合わせて、言い放った。真砂子がただで教えるとは、最初から思っていなかったのだ。
 その銃は、冠葉が少し前から始めた、一般的に言うと『バイト先』から借りてきたものだった。ただそれは、給料の支払いが桁違いである代わりに、法に触れる事もさせられるような『バイト先』であった。毎月振り込まれる生活費だけでは、到底払える金額では無いほどに跳ね上がった入院費をどうにか捻出しようと、晶馬にも陽毬にも教えずに始めたものだった。
 銃には勿論本物の銃弾が入っている訳ではなく、代わりに、五百円玉大の赤い球体がセットされていた。
 突然銃を向けられた真砂子は、驚いた様に目を見開いて、手に持っていたカップを、カチャッと音を立てて机に置いた。動揺している様子ではあったけれど、それでも毅然としたままで、冠葉から目を逸らさない。
「貴方、それ、どこで手に入れたというの?」
「お前はこれが何なのか知っているだろう、夏芽家の系列の会社で作られた物だからな」
「ええ、わたくしはそれを存じているわ。……でも、そのことは問題では無くてよ。冠葉、貴方はもう、それを手に入れてしまうような事に、手を染めてしまっているというの…?」
「お前には関係ない、質問に答えろ」
 冠葉は吐き捨てるように言い放ちながら、自分がもう後には戻れない事をしているのだと、どこか遠い所から見ているかのように、ぼんやりと自覚していた。真砂子の命を奪おうとしている訳ではない。しかし、人に銃を向けているという行為が、まともであるとは到底に思えない。
 真砂子は、冠葉から少しも視線を逸らさないまま、ゆっくりと立ち上がった。驚いてはいるけれど、それでも震えたりもせず毅然とこちらを見てくる様子に、やはり一筋縄ではいかない女だな、と冠葉は思った。
「わたくしは、それを撃たれることについては何の恐怖も感じなくてよ。わたくしはそれを、おそらく貴方よりも熟知している。けれど、わかったわ」
 そして真砂子は、小さくため息を吐いた。相変わらず毅然とした表情に、けれどもどこか諦めの様子が混じる。
「わたくしがどうしてマリオさんの命を救うことが出来たのか、教えて差しあげるわ。けれど覚えておいて、もし貴方の身に何か危険が起こったときは、わたくしは貴方の弟や妹を許さなくてよ」
「……わかった」


「……それにはね。代償が、必要なのよ」

 そうして冠葉は、真砂子から『渡瀬眞悧』という人物の情報を聞き出したのだった。真砂子は、「貴方の弟が入院している病院を、よく調べてみることね」としか言わなかったけれど、それだけでも十分な手がかりであった。




 陽毬より少し遅れて訪れた病院は、もうずっと通っていて見慣れたものだった。立派な作りで、大きくそびえ立っていて、威厳と威圧感を感じる建物だ。
 その病院の中を、冠葉はいつも行っている晶馬の病室へは向かわずに、離れにある普段はあまり立ち入ることのない場所を歩いていた。ここが何科の病棟であるのか、もしくは入院するための場所では無いのか、それすらもよくわからない。薄暗い廊下は、歩くと足音がやけに響いた。
 おそらくほとんど人が出入りすることは無いのだろう、辺りを見渡しても、他に人は見当たらなかった。ナースステーションも病室すらも見当たらず、けれど、この病院の中のどの場所よりも、異様に豪華で立派な場所であった。床も壁も真っ白で汚れ一つ見当たらなかったし、所々にある部屋からは、沢山の機器が置かれているのが見えた。
 冠葉は医学の知識なんて全く持ち合わせていなかったから、それがどういう機械なのかなんてわからなかったけれど、全て高価な物であることは何となく理解できた。しかも、ここにある機械だけで、ありとあらゆる病気の検査や治療が出来てしまうのではないか、という程の数だった。この辺り一帯が、この病院の中でも格別の待遇を受けているのだ、ということは、ただの高校生である冠葉にも一目瞭然であった。
 そうして辿り着いた所は、廊下をずっと進んだ先にある、突き当たりの部屋だった。ぎい、と重い扉を押して、部屋に入る。この病院の他の部屋は、横にスライドさせて開けるタイプの扉なのに、何故かこの部屋だけは、ドアノブを回して押し開けるタイプのものだった。周囲から感じる威圧感に怯みそうになりながらも、それを振り切るように、冠葉は一気に扉を押し開けた。

「ああ、君か。確か、高倉冠葉くん、だったね。待っていたよ、そろそろ来る頃だと思っていた」
 こちらから何も言う前に、扉の向こうに現れた部屋で、悠然とした様子で椅子に座る人物から声がかけられた。窓際に置かれた籠から、二匹の黒いうさぎが耳をぴょこんと動かしているのが見える。部屋の主は、突然の来客にも驚いた様子は無く、しかも冠葉の素性まで知っているようだった。真砂子から、何か聞いているのだろうか。
「ここに来た理由は、弟くんのこと、だよね?」
「……どうしてそれを?」
「さあ、どうして知っているのかなんてことは、大した問題ではない。だけど、事実だろう?」
「……ええ、まあ」
 説明を何もしなくても、こちらのことの全てを相手は知っているようだった。どこでその情報を手に入れたのか、冠葉に得体の知れない恐怖が這い上がってきて、ゾッと寒気がした。
 椅子に座ったまま、勝手に話を進める相手からは、その表情から感情を読み取ることも出来ず、長い髪もその服装も、何もかもが胡散臭く思えた。そしておもむろに足を組んで、まるで何でもない、どうでもいいことのように、眞悧は冠葉に告げたのだ。

「助ける方法、一つだけ、あるよ」

 シビレるねぇ、と続けて、眞悧は唇の端を僅かに持ち上げた。その言葉は、冠葉にはようやく見つけた一縷の望みのように聞こえた。もうどうしようもない程に進行しているだろう晶馬の病気を、食い止めることが出来る、唯一の希望。

 今思えば、それが、運命の歯車を絶望へと向かわせることになる、きっかけとなってしまったのだけれど。
そんなことを、冠葉はこのとき、一瞬でも頭によぎることもなかったのだ。それに、今となって後悔したとしても、この時の冠葉を止める方法なんて、誰も持ち合わせてなんかいなかった。

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