輪るピングドラムの二次創作テキストブログ。
冠晶中心に晶馬総受け。
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病気晶ちゃん、ラストです!
その日は、いつもと何ら変わらない一日だった。あれだけ最高気温の記録を更新し続けた蒸し暑い日も、ようやく少し落ち着きを見せたようで、過ごしやすくなっていた頃のことだった。
晶馬の病態はもう大分よくなってきていて、数時間程度なら、一人で病院の中を散歩できるようになっていた。青白かった顔色も、今ではすっかり面影も無くなって、赤味が戻ってきた。食欲はいまだに戻らないようだったけれど、点滴を四六時中しなければならない程ではなく、一日一回程度でよくなった。
ただ、それに比例するように、晶馬はぼんやりとする時間が多くなっていた。酷い時には、一日中反応がないこともあった。何も考えていないような、まるで能面のような表情で、ただひたすらぼおっと外を眺めている様子は、冠葉と陽毬の心をぎゅうっと苦しくさせるものだった。そんな時は、二人でそっと晶馬の側に寄り添っていた。なるべく晶馬の名前を呼んであげよう、と提案したのは陽毬で、それからは二人で、どんなに反応が無くても呼びかけるようにしていた。
状況は、良いことばかりではないかもしれない。けれど、少なくとも命の危険だけは免れたのだ。今はまだ予断を許さない状態だけれど、もうすぐしたら、薬だって必要無くなるのだろう。その時がきたら、もしかしたら晶馬も、ぼんやりとすることも少なくなるかもしれない。
カラカラ、と、陽毬がいつものように晶馬の病室の扉を開けた。最近はバイトが忙しかったから、冠葉は病院に来るのは久しぶりだった。二人揃ってというのは、それこそ一週間ぶりぐらいのことだった。
「あ、陽毬」
二人で見舞いに行く日に、病室へと入るのはいつも陽毬が先だった。陽毬の姿を見た晶馬が、嬉しそうに顔を綻ばせる。どうやら今日は、ぼおっとしている様子はなく、普段通りの晶馬のようだった。晶馬の声を聞いて陽毬も安心したようで、つられるようにぱあっと笑顔になった。
「晶ちゃん、今日はケーキ持ってきたんだ!私が作ったんだよ。食べれる?」
陽毬の手に持たれているお手製のケーキは、まるで店で買った物のように立派なケースに入れられていた。それを陽毬が得意そうに、「じゃーん」と言いながら、少し高く持って晶馬に見せた。
「陽毬、すごいよ!食べるに決まってるじゃないか。……でも、えっと、」
冠葉はこの時まで、全くと言っていい程、何の違和感も感じていなかった。
このまま三人で陽毬のケーキを食べて、学校の出来事だとか家のことだとか、病院でのことだとか、そういうたわいもない話をして、いつもと変わらない一日になると思っていた。少しだけふざけて、他の部屋に響かないように声を抑えて笑って、晶馬に夜の分の薬が打たれるのを見届けて。そして陽毬と二人で並んで家に帰るのだと、当たり前のように考えていた。
だから冠葉は、晶馬が口にした言葉が、しばらくの間、どうしても理解することが出来なかった。
「ねえ陽毬、一緒にいる人は誰?」
それほど大きい訳でもない晶馬の声が、虚しい程に部屋中に響き渡った。言っている意味が、よくわからない。だって晶馬は、今日はいつもより、珍しいくらいに元気そうなのだ。今晶馬は、何と言ったのだろう。一体何が、起こっているというのだろう。
「え…?晶ちゃん、どうしたの?」
「陽毬の友達?」
「違うよ晶ちゃん、冠ちゃんだよ?!」
陽毬が必死に、小さく叫び声をあげて、晶馬の肩を揺さぶる。弾みで落ちてしまったケーキも、陽毬はもうどうだっていいようで、拾いもせずに、虚しく床に転がっていた。
冠葉は、何も言うことが出来なかった。口が急速にカラカラに渇いていって、上手く口が開けなかった。目前の光景が、今自分が立っている場所とは違う所での出来事のように思えた。
けれども冠葉は、ここにきてやっと、何故だか急速に理解した。代償というものは、何も薬を貰う者だけに、晶馬だけに与えられる物ではなくて、それは。
「知らない人、だよ?」
それは、冠葉にも、与えられる物だったのだ。
晶馬の病態はもう大分よくなってきていて、数時間程度なら、一人で病院の中を散歩できるようになっていた。青白かった顔色も、今ではすっかり面影も無くなって、赤味が戻ってきた。食欲はいまだに戻らないようだったけれど、点滴を四六時中しなければならない程ではなく、一日一回程度でよくなった。
ただ、それに比例するように、晶馬はぼんやりとする時間が多くなっていた。酷い時には、一日中反応がないこともあった。何も考えていないような、まるで能面のような表情で、ただひたすらぼおっと外を眺めている様子は、冠葉と陽毬の心をぎゅうっと苦しくさせるものだった。そんな時は、二人でそっと晶馬の側に寄り添っていた。なるべく晶馬の名前を呼んであげよう、と提案したのは陽毬で、それからは二人で、どんなに反応が無くても呼びかけるようにしていた。
状況は、良いことばかりではないかもしれない。けれど、少なくとも命の危険だけは免れたのだ。今はまだ予断を許さない状態だけれど、もうすぐしたら、薬だって必要無くなるのだろう。その時がきたら、もしかしたら晶馬も、ぼんやりとすることも少なくなるかもしれない。
カラカラ、と、陽毬がいつものように晶馬の病室の扉を開けた。最近はバイトが忙しかったから、冠葉は病院に来るのは久しぶりだった。二人揃ってというのは、それこそ一週間ぶりぐらいのことだった。
「あ、陽毬」
二人で見舞いに行く日に、病室へと入るのはいつも陽毬が先だった。陽毬の姿を見た晶馬が、嬉しそうに顔を綻ばせる。どうやら今日は、ぼおっとしている様子はなく、普段通りの晶馬のようだった。晶馬の声を聞いて陽毬も安心したようで、つられるようにぱあっと笑顔になった。
「晶ちゃん、今日はケーキ持ってきたんだ!私が作ったんだよ。食べれる?」
陽毬の手に持たれているお手製のケーキは、まるで店で買った物のように立派なケースに入れられていた。それを陽毬が得意そうに、「じゃーん」と言いながら、少し高く持って晶馬に見せた。
「陽毬、すごいよ!食べるに決まってるじゃないか。……でも、えっと、」
冠葉はこの時まで、全くと言っていい程、何の違和感も感じていなかった。
このまま三人で陽毬のケーキを食べて、学校の出来事だとか家のことだとか、病院でのことだとか、そういうたわいもない話をして、いつもと変わらない一日になると思っていた。少しだけふざけて、他の部屋に響かないように声を抑えて笑って、晶馬に夜の分の薬が打たれるのを見届けて。そして陽毬と二人で並んで家に帰るのだと、当たり前のように考えていた。
だから冠葉は、晶馬が口にした言葉が、しばらくの間、どうしても理解することが出来なかった。
「ねえ陽毬、一緒にいる人は誰?」
それほど大きい訳でもない晶馬の声が、虚しい程に部屋中に響き渡った。言っている意味が、よくわからない。だって晶馬は、今日はいつもより、珍しいくらいに元気そうなのだ。今晶馬は、何と言ったのだろう。一体何が、起こっているというのだろう。
「え…?晶ちゃん、どうしたの?」
「陽毬の友達?」
「違うよ晶ちゃん、冠ちゃんだよ?!」
陽毬が必死に、小さく叫び声をあげて、晶馬の肩を揺さぶる。弾みで落ちてしまったケーキも、陽毬はもうどうだっていいようで、拾いもせずに、虚しく床に転がっていた。
冠葉は、何も言うことが出来なかった。口が急速にカラカラに渇いていって、上手く口が開けなかった。目前の光景が、今自分が立っている場所とは違う所での出来事のように思えた。
けれども冠葉は、ここにきてやっと、何故だか急速に理解した。代償というものは、何も薬を貰う者だけに、晶馬だけに与えられる物ではなくて、それは。
「知らない人、だよ?」
それは、冠葉にも、与えられる物だったのだ。
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