輪るピングドラムの二次創作テキストブログ。
冠晶中心に晶馬総受け。
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山晶、冠晶。毎度のことながら暗いです。そして短い。
つづきからどうぞ。
つづきからどうぞ。
あ、と気づいたときには、もう突き飛ばしていた。夕暮れどきの赤く染まった教室の中で、近づいてくる山下の顔。まともになんか見られなかった。ガラガラと異様に音を立てて倒れた山下を、僕はただ茫然と突っ立ったまま見ていることしか出来なかった。
「俺、たぶん、晶馬のこと好きなんだ」
数分前の山下の言葉が、僕をぐるぐると巻きついて縛り付ける。頭の中はパニック状態で、絶望感でいっぱいだった。知らないふりをしないと、何もなかったことにしないと、このままだと引き返せなくなってしまう。
「えっと…ごめん山下、言ってる意味がよくわからない」
声が震えてしまわないように、出来るだけいつも通りを装って僕は何とか言葉にした。もしかしたら顔が引き攣ってしまったかもしれないけれど、そこまで気に止めることは出来なかった。
山下の顔が、みるみると曇っていくのがわかる。酷いことを口にしている自覚はあった。けれど今、僕の頭の中にあるのは山下のことなんかじゃないのだ。
どうしよう、兄貴に、見られてしまったら。きっと全てが、終わってしまう。
迫り来る焦燥感から、僕には山下を気遣う余裕なんて少しも残されていなかった。だから、よく表情が伺えない山下が唇を噛んでいるのが見えても、僕は何も言うことが出来ない。
山下も僕もただ黙っているだけで、ひたすらに沈黙が流れる。張り詰めたような空気が息苦しくて、僕は早くこの場所から逃げ出してしまいたかった。
「ごめん山下、僕急ぐから」
そうして耐えきれずに出てきたものは、はっきりとした拒絶だった。鞄を乱暴に掴んで教室の外に駆け出そうとする。けれど山下は、それを許してはくれなかった。一瞬のうちに僕の肩が思い切り掴まれて、そしてそのまま、山下の顔が近づいてきていたのだ。
考える暇なんてなかった。混乱していた頭では上手く対処することも出来なくて、僕は無意識のうちに山下を突き飛ばしていた。
はぁ、はぁ、と荒く息をしても、苦しさはちっともよくならない。静かな教室に、息遣いだけがやけに虚しく響いて聞こえた。
「いってぇ…」
山下の声に、ようやく僕は自分が何をしたのかに気づく。ばらばらに倒れたいくつかのイスが現実を物語っていて、ハッと息を呑んだ。
違う、こういうことをしたかった訳じゃない。山下を、傷つけたい訳じゃなかったのに。
「山下、ごめん…!」
慌てて駆け寄り、しゃがみこんで山下に手を伸ばす。山下の顔は、逆光のせいもあってやっぱりよくわからない。何を考えているのか伺えなくて恐る恐る伸ばした手を、山下はしっかりと掴んできて、僕は少しだけホッとした。どうやら、ケガはしていないみたいだ。
同時に、掴まれた腕を見て、僕は心がさあっと冷めていくのを感じる。そんなに強くはないけれど、簡単には解けないような力だった。どうしてこんなに、山下は僕達に関わってこようとするのだろう。これ以上入り込まれたら、もう元には戻れなくなるかもしれないというのに。
「この手、絶対離したくないんだけど」
だから、そういう言葉が、いつも僕をズタズタに引き裂くのだ。山下は何も知らない。僕のことも兄貴のことも、この状況が何を意味しているのかさえも。
「……そういうの、僕はいらない」
結局吐かなければならない酷い言葉は、僕をきつく絞めつける。きっと山下は、僕以上に傷ついているはずだ。だからこれ以上何か言わなければならなくなる前に、もう僕のことは放っておいて欲しかった。
兄貴に見つからないうちに、早く家に帰りたい。陽毬が作ってくれたごはんを食べて、三人でテレビを見て過ごしたい。頭の中で思い浮かぶことが、だんだんぼんやりと霞んで遠くなっていく。早くここから、逃げ出してしまいたい。
「……そこで何やってんだ?」
終わりの訪れは、唐突だった。飽きるほどに聞き慣れた声は、頭の中にずかずかと入り込んで、何の慈悲もなく僕を暗闇に突き落とす。後ろを振り返れない。姿を見るのが怖い。けれど声の主が誰かなんて、僕は痛いほどによくわかっていた。
「……あに、き」
ぎゅう、と閉じた喉から絞り出すように発した声は、おそらく誰にも届くことはなかった。間に合わなかったのだ。とうとう、兄貴に見つかってしまった。
「晶馬、帰るぞ」
茫然としている間につかつかと近寄っていた兄貴が、僕の髪を掴んで無理やりに上を向かせた。山下のことは、全く目に入っていないかのようだった。目があった兄貴の視線は、まるでナイフのように鋭くて、僕を容赦なく切りつけてくる。僕は痛いとも離してとも言えなくて、小さくひゅっと息を呑んだ。
「おい冠葉、何やってんだよ!」
山下の叫ぶ声も、どこかぼんやりとしていて僕にはっきりと届かない。射抜くような兄貴の目から逸らすことが出来ず、僕はこれで普段のような生活はもう二度と送ることは出来ないのだと、至極当然のように突き付けられた。これで兄貴は、僕を絶対に離してはくれないだろう。
山下に掴まれたままだった腕が乱暴に引き剥がされて、代わりに兄貴にそれ以上の力で掴まれる。引っ張られる力に足がよろめきながらも、僕は兄貴に何も言えず、ただ黙ってその場を後にするしかなかった。山下のことは一度も振り返ることはなかった。もう、会うことはないのかもしれない。
暗闇に落とされたままの僕の心が、急速に冷えていく。兄貴に掴まれた腕はとても痛くて、そこから何もかもを奪われてしまうかのように、僕の思考はゆるゆると凍りついていった。
「兄貴ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
呟いた僕の声も、兄貴には何も、届かない。小さく聞こえた舌打ちの音は、僕の心をばらばらに砕いて壊していった。
「俺、たぶん、晶馬のこと好きなんだ」
数分前の山下の言葉が、僕をぐるぐると巻きついて縛り付ける。頭の中はパニック状態で、絶望感でいっぱいだった。知らないふりをしないと、何もなかったことにしないと、このままだと引き返せなくなってしまう。
「えっと…ごめん山下、言ってる意味がよくわからない」
声が震えてしまわないように、出来るだけいつも通りを装って僕は何とか言葉にした。もしかしたら顔が引き攣ってしまったかもしれないけれど、そこまで気に止めることは出来なかった。
山下の顔が、みるみると曇っていくのがわかる。酷いことを口にしている自覚はあった。けれど今、僕の頭の中にあるのは山下のことなんかじゃないのだ。
どうしよう、兄貴に、見られてしまったら。きっと全てが、終わってしまう。
迫り来る焦燥感から、僕には山下を気遣う余裕なんて少しも残されていなかった。だから、よく表情が伺えない山下が唇を噛んでいるのが見えても、僕は何も言うことが出来ない。
山下も僕もただ黙っているだけで、ひたすらに沈黙が流れる。張り詰めたような空気が息苦しくて、僕は早くこの場所から逃げ出してしまいたかった。
「ごめん山下、僕急ぐから」
そうして耐えきれずに出てきたものは、はっきりとした拒絶だった。鞄を乱暴に掴んで教室の外に駆け出そうとする。けれど山下は、それを許してはくれなかった。一瞬のうちに僕の肩が思い切り掴まれて、そしてそのまま、山下の顔が近づいてきていたのだ。
考える暇なんてなかった。混乱していた頭では上手く対処することも出来なくて、僕は無意識のうちに山下を突き飛ばしていた。
はぁ、はぁ、と荒く息をしても、苦しさはちっともよくならない。静かな教室に、息遣いだけがやけに虚しく響いて聞こえた。
「いってぇ…」
山下の声に、ようやく僕は自分が何をしたのかに気づく。ばらばらに倒れたいくつかのイスが現実を物語っていて、ハッと息を呑んだ。
違う、こういうことをしたかった訳じゃない。山下を、傷つけたい訳じゃなかったのに。
「山下、ごめん…!」
慌てて駆け寄り、しゃがみこんで山下に手を伸ばす。山下の顔は、逆光のせいもあってやっぱりよくわからない。何を考えているのか伺えなくて恐る恐る伸ばした手を、山下はしっかりと掴んできて、僕は少しだけホッとした。どうやら、ケガはしていないみたいだ。
同時に、掴まれた腕を見て、僕は心がさあっと冷めていくのを感じる。そんなに強くはないけれど、簡単には解けないような力だった。どうしてこんなに、山下は僕達に関わってこようとするのだろう。これ以上入り込まれたら、もう元には戻れなくなるかもしれないというのに。
「この手、絶対離したくないんだけど」
だから、そういう言葉が、いつも僕をズタズタに引き裂くのだ。山下は何も知らない。僕のことも兄貴のことも、この状況が何を意味しているのかさえも。
「……そういうの、僕はいらない」
結局吐かなければならない酷い言葉は、僕をきつく絞めつける。きっと山下は、僕以上に傷ついているはずだ。だからこれ以上何か言わなければならなくなる前に、もう僕のことは放っておいて欲しかった。
兄貴に見つからないうちに、早く家に帰りたい。陽毬が作ってくれたごはんを食べて、三人でテレビを見て過ごしたい。頭の中で思い浮かぶことが、だんだんぼんやりと霞んで遠くなっていく。早くここから、逃げ出してしまいたい。
「……そこで何やってんだ?」
終わりの訪れは、唐突だった。飽きるほどに聞き慣れた声は、頭の中にずかずかと入り込んで、何の慈悲もなく僕を暗闇に突き落とす。後ろを振り返れない。姿を見るのが怖い。けれど声の主が誰かなんて、僕は痛いほどによくわかっていた。
「……あに、き」
ぎゅう、と閉じた喉から絞り出すように発した声は、おそらく誰にも届くことはなかった。間に合わなかったのだ。とうとう、兄貴に見つかってしまった。
「晶馬、帰るぞ」
茫然としている間につかつかと近寄っていた兄貴が、僕の髪を掴んで無理やりに上を向かせた。山下のことは、全く目に入っていないかのようだった。目があった兄貴の視線は、まるでナイフのように鋭くて、僕を容赦なく切りつけてくる。僕は痛いとも離してとも言えなくて、小さくひゅっと息を呑んだ。
「おい冠葉、何やってんだよ!」
山下の叫ぶ声も、どこかぼんやりとしていて僕にはっきりと届かない。射抜くような兄貴の目から逸らすことが出来ず、僕はこれで普段のような生活はもう二度と送ることは出来ないのだと、至極当然のように突き付けられた。これで兄貴は、僕を絶対に離してはくれないだろう。
山下に掴まれたままだった腕が乱暴に引き剥がされて、代わりに兄貴にそれ以上の力で掴まれる。引っ張られる力に足がよろめきながらも、僕は兄貴に何も言えず、ただ黙ってその場を後にするしかなかった。山下のことは一度も振り返ることはなかった。もう、会うことはないのかもしれない。
暗闇に落とされたままの僕の心が、急速に冷えていく。兄貴に掴まれた腕はとても痛くて、そこから何もかもを奪われてしまうかのように、僕の思考はゆるゆると凍りついていった。
「兄貴ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」
呟いた僕の声も、兄貴には何も、届かない。小さく聞こえた舌打ちの音は、僕の心をばらばらに砕いて壊していった。
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