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輪るピングドラムの二次創作テキストブログ。 冠晶中心に晶馬総受け。
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2018/10/18 (Thu)                  [PR]
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2012/01/16 (Mon)                  カウントダウン3
病気晶ちゃん、3つめ。

 冠葉が眞悧と会っている頃よりも少し前に、陽毬は一人で晶馬のいる病院に辿り着いた。
 普段より早い時間から来たせいか、病院の中はいつもよりざわついている。まだ午前中であるためか、一階には外来患者がごった返していて、陽毬はそれをすり抜けるようにして目的地へと進む。
 冠葉と一緒に家を出たのだけれど、結局一人で先に来ることになった陽毬は、両手に着替えや晶馬が暇を潰すための文庫本を抱えていて、中々に人ごみをすり抜けることが難しかった。歩き慣れた道順が、酷く遠い道のりのように感じる。


 昨晩の電話の後、そのまま病院へ駆けつけたかったのは冠葉だけでなく、陽毬だって同じだった。そんな中で陽毬を現実へと引き戻したのは、冠葉の青ざめた表情だった。普段は冷静に、陽毬と晶馬をよく見ていて守ってくれる冠葉が、こんなにも動揺している所なんて、それは珍しいことであったのだ。それでも、陽毬には冠葉の気持ちが痛いほどによくわかったから、泣き出してしまいたい感情をぐっと抑えて、冠葉にしがみついた。

 冠葉が、最近帰ってくる時間が遅くなっていることを、陽毬はとっくに気づいていた。目に見えて遅くなっている訳ではなく、絶対に夕飯の時間までに帰ってくるのだけれど、それでも陽が完全に落ちてしまってから帰宅することが多くなった。今は夏の真っ只中であるから、陽が落ちるのだって随分と遅い時間になる。
 それに、冠葉は最近特に疲れているように見えた。晶馬のことがあるから、元気いっぱいという訳にはいかないのは陽毬も同じだけれど、それだけではないような気がした。何か大きな仕事をこなした後のような、心の底から疲れきっているように見える時もあるのだ。そんな冠葉を心配しながらも、陽毬は何故か、その理由を冠葉に聞くことが出来なかった。
 知らないままでいなければならないような、そんな気がしたのだ。

 晶馬の病室は、ざわめく病棟から少し外れた所にある。ナースステーションの前を通りすぎると、いつも陽毬に晶馬の状態を教えてくれる看護師の姿が見えた。陽毬は小さく会釈をして、廊下の一番端にある晶馬の病室へと急いだ。午前中はまだ面会時間ではないけれど、長い間この病院へと通っているうちに、時間外の面会時間でも黙認してもらえるようになっていたのだ。
 昨晩の電話の後から、ずっと感じていた焦燥感に駆られるように、陽毬は晶馬の病室へ辿り着くと、カラカラと一気に扉を開けた。
「晶ちゃん!具合はどう、もう大丈夫なの?」
 はやる気持ちを抑えながらも、扉を閉め切る前に、早口で陽毬は喋る。けれども、それに返事はない。返事が聞こえなかったことと、それに晶馬が身動き一つとらずにベッドに横たわっていることに、陽毬は一抹の不安を覚えて、慌てて晶馬の元へと駆け寄った。
 すると、小さく寝息を立てる音が聞こえてきて、陽毬は昨日から溢れんばかりであった不安が、ようやく、少しだけしぼんで行くのを感じた。ホッと胸を撫で下ろして、壁に折り畳んで立て掛けてあるパイプ椅子を、ベッドのすぐ側に取りだす。
 シーツもパジャマも、既に新しいものに取り替えられていて、病室は昨日訪れたときと何も変わっていないように見えた。見慣れた光景に、陽毬は、昨日の夜に電話で聞いたことが起こったというのは、何か夢のような物だったのではないかとさえ思えた。
 けれど、例え入院していても晶馬は早起きだったから、こんな時間まで寝ているというのは、やはり、何かが違っているのだ。きっと昨日は、あまり眠れなかったのだろう。

 両親が居なくなってからは、晶馬はずっと陽毬の母親のような存在だった。朝起こしてくれるのも、ご飯を作ってくれるのも、口うるさく小言を言うのも晶馬だった。そのせいなのか、晶馬と一緒にいると、ホッと安心できる。冠葉とは違う意味で、陽毬を優しく包んで温めるように、守ってくれる存在だった。
 陽毬は今でも、両親が居なくなった日のことを、鮮明に思い出すことができる。その日の気温、やっていたテレビ番組、食べようとしていたご飯のメニューも、全て覚えていた。そして、いくら待っても帰ってこない両親を、それでもずっと待っていた、あの時の気持ちも。家にいることが、こんなに寂しいものなのだとは、陽毬はそれまで少しも考えたことはなかった。家の中がとても静かで、広くて、何だか気温まで下がったようだった。
 寂しくてたまらなくて、胸がはち切れそうになりながらも陽毬があの家に居られたのは、冠葉と晶馬が、いつだって陽毬の側に居てくれてからなのだと思う。
 晶馬が居なくなってから、陽毬は家にいることがだんだんと辛くなっていた。三人で居られたら、もう両親のことを思い出すことも無くなっていくのだと思っていたのに、どうしてこういうことになってしまったのだろう。晶馬の余命の宣告を受けた日に、冠葉が言っていた、「絶対に死なせない」という言葉だけが、今の陽毬の唯一の拠り所だった。
 とにかく、もう誰か一人でもこの家から欠けてしまうということに、陽毬は絶対に、耐えられないのだ。
 本当は、どうして冠葉の帰りが最近遅くなっているのかも、今日どうして陽毬と一緒に来なかったのかも、その理由なんて、全部わかっているのかもしれない。それを考えないようにしているのは、そういうことを、きっと冠葉に求めてしまっているからなのだ。もしかしたら、とても危険なことをしているのかもしれないし、疲れた顔をして帰ってくる冠葉を心配していない訳ではない。けれど陽毬は、高倉家にどうしても晶馬を取り戻したい為に、冠葉の様子が最近おかしいことを、見て見ぬ振りをしているのだ。






 冠葉が晶馬の病室へ来たときには、もう時間は十三時を過ぎた頃になっていた。部屋に入ると、晶馬はまだ寝ているようで、そのベッドにうつ伏せになって陽毬もうたた寝をしていた。冠葉が昨日あまり寝ていないように、陽毬も眠れなかったのだろうか。二人が寝ている所を見て、冠葉もホッと、胸を撫で下ろした。
 病院の端の方にある、あの妙に豪華な診察室での眞悧との面談は、あの後何回か会話をかわしただけで、すぐに終わった。それなのにこんなに遅くなってしまったのは、その会話を、一人でぼんやりと待合室に座って反芻していたからだった。


「助ける方法はあるよ。だけど、それには代償が必要なんだ」
 相変わらず、まるで今日も暑いね、とでも言うような口調で、どうでもいいことのように眞悧は告げた。代償、と、口の中だけで冠葉は言葉を復唱する。それは、夏芽家へ行ったときも、真砂子が口にしていたものだった。
「…代償、というのは?」
「さあね、それは僕にもわからないよ」
 そうしてまた、ニヤリと笑う。唇の端は上がっているのに、目元は少しも笑ってなんかいないように冠葉は見えた。
「わからない?」
「そう、わからないんだ。何かが奪われるのか、それとも何かが起こるのか、僕にもわからない。けれど、絶対に代償は必要だ」
「金じゃないのか?」
「もちろんそれも頂くよ。それだって、決して安くはないけどね」
 何だか、掴みどころのない人物だと冠葉は思った。晶馬の病気を治すことは、決してタダではない。それは、最初からわかりきっていたし、覚悟もしている。けれども、そのための代償というものが何なのか、全く掴めないのだ。しかも、ただ金を払えば済む話ではないようである。
「助ける方法って言っても、ただ強い薬を投与するだけなんだけどね。けれど、どんな病気だって治せる薬なんだ」
「その薬の、副作用ってことか?」
「さあ、どうだろうね」
「わからないとかどうだろうとか、あんたそれでも医者かよ」
 話の筋が見えなくて、冠葉はだんだんとイライラしてしまい、口調が乱暴になってくる。それでも眞悧は、そんな冠葉に気づいているのかいないのか、口調も表情も変えずに、飄々と続ける。
「わからないものはわからないからね、君の望んでいる答えは与えられない。ただ君の弟は、薬が沢山必要となるだろう。つまり、その代償だって大きくなるかもしれない。それでも、いいんだよね?」
 まるで冠葉の答えなんてわかりきっているかのように、眞悧に問われる。それは、単なる事実を、ただ確認するためのようなもの。そうだ、代償なんていうものは、冠葉は最初から、気にしてなんかいなかったのだ。
「構わない。それで晶馬が、助かるのなら」
 こうして、眞悧との契約が成立した。


 眠っている晶馬と陽毬の姿は、まるで穏やかな日々の日常を写しているようで、冠葉は先程までの、どこか非日常的なあの医者との会話が、こことは違う世界での出来事だったのではないかと思えた。けれど、この光景もおそらくは偽物の穏やかさであり、気を抜けばすぐに崩れ去って行くものなのだろう。
「……あれ、冠ちゃん」
 人の気配を察したのか、うたた寝をしていた陽毬が目を覚まして、むく、とうつ伏せていたベッドから頭を起こした。ごしごしと、軽く目を擦る。
「悪い陽毬、起こしちまったか」
「ううん、大丈夫。何だか眠くて、いつの間にか寝ちゃってた。それにしても冠ちゃん遅かったね、どこ行ってたの?」
「ああ、ちょっと用事が長引いて」
 言いながら、むく、と立ち上がった陽毬が、冠葉のために椅子を壁際から運んできてくれる。陽毬の隣に置かれた椅子に、冠葉も腰掛けた。そうしている間に、陽毬との話し声が響いてしまったのか、ベッドの上で、晶馬がううん、と身じろいだ。
「………あれ、陽毬?それに兄貴も」
「晶ちゃん!もう、すっごく心配したんだからね!」
 ぱち、と目を覚ました晶馬に、陽毬が飛びつくようにしがみついた。状況がよくわかっていないのか、晶馬は陽毬を受け止めながら、目をぱちくりとさせる。
「って、まだ十三時じゃないか。二人とも今日は早いね」
「早いね、じゃないだろ。お前こそいつまで寝てるんだよ」
「仕方ないだろ、眠かったんだから」
 そう言って、陽毬に抱きしめられながらも、器用に体をむくりと起こした。晶馬は元気そうに見えて、昨日の電話で聞いたことは、嘘だったのではないかと思える程だった。返ってくる憎まれ口も、ムッとしたような顔も、いつもの晶馬と何ら変わらないように見えた。やっぱり、どうしたって失いたくはないのだ。冠葉も陽毬も、もう二度と、昨日のような思いはしたくない。

「晶馬。今日から主治医、変わるから」
 会話の流れを遮るように、冠葉はおもむろに告げた。誰の相談も受けていない、自分が勝手に決めたことを、こうやって晶馬に押し付けるのは、もう何度目だろうか。晶馬が一人で高倉家から出て行こうとしていた時から、冠葉はたまに、有無を言わさずに決定事項を突きつける時があった。
「え?何も聞いてないけど」
「私も聞いてないよ?」
「ああ、俺もさっき聞いたんだ。もう決定したって」
 晶馬と陽毬が、怪訝そうに顔を見合わせた。これまでに晶馬の主治医が変わったことなんて一度も無かったのだ。それに、主治医が移動になった訳でもないのに変わるというのは、とても珍しいことなのだと、入院生活が長い晶馬はよくわかっているのかもしれない。
「ふうん…?でも、いい人だったらいいね」
 それでも陽毬は、すぐに納得したようで、少しだけ悩んだような素振りを見せたあと、ぱあっと笑顔になった。陽毬はいつも、そういう風に、何の疑問も無く冠葉についてきてくれるのだ。そして冠葉は、その陽毬の笑顔が救いだった。冠葉と陽毬は、ずっと前から、今だって、共犯者のような存在なのだ。陽毬はきっと、冠葉が何をしているのか、薄々勘付いているのかもしれない。
「……うん、そうだね」
 晶馬はまだ不思議そうな表情で、探るように冠葉を見ていた。何かを冠葉に問いたいような、でも口に出せないでいるような。けれども冠葉は、そんな晶馬に気づかないふりをする。
「あと、今日から薬も増えるらしいから」
「……わかった」
 怪訝そうにしながらも、晶馬は無理やりに納得したようだった。そして、もう何も言わなくなる。
 ふいに、代償、という言葉が冠葉の頭をよぎった。何が起こるかわからない。それを払えば病気は治るかもしれないけれど、代わりに失うものがあるのかもしれない。そんな大きな決断を、晶馬に何も言わずに決めてしまったことに、罪悪感を感じていない訳ではない。
 けれど、どうしても冠葉は、この平和な時間をずっと繋ぎとめておきたいと、心の底から願っていたのだ。

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