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輪るピングドラムの二次創作テキストブログ。 冠晶中心に晶馬総受け。
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2011/11/21 (Mon)                  退屈しのぎ『Wed.嘘つき』
退屈しのぎ・みっつめ。
風邪ひいちゃったよ。山下はやっぱりかわいそう。


 ああ、もう駄目かもしれない。

 くるくると回り始めた教室を見ながら、晶馬は自分の机に顔を突っ伏した。しばらくして、くるくると回っているのは教室ではなく、自分の視界であると気づく。頭がぼおっとして、視界がぼやける。机に頭を預けると幾分楽にはなったけれど、それでもやっぱり、体は怠い。

「どうした高倉弟っ、なんだ風邪かー?」

 もう自分の中でも分かりきっていたけれど、それでも認めたくなかったことを、休み時間になる度に自分の元にやってくる山下に言われてしまえば、やっぱり事実なんだと認めないわけにはいかなくなった。

「うん、そうかも」

 喋るのも億劫であったけれど、心配して声を掛けてくれた友人を蔑ろにするわけにはいかない。そうでなくとも、昨日は山下を無関係な兄弟喧嘩に勝手に巻き込んで、冷たく扱ってしまったばかりなのだ。お詫びに今日は山下にもロールキャベツを持ってこようかと思ったけれど、昨日作った物はほとんど冠葉が平らげてしまったから、それは叶わぬこととなった。

「顔赤いしなー、熱もあるんじゃん?兄貴に連れて帰ってもらえば?あれ、でも今日冠葉は?」

 晶馬の双子の兄の姿が見当たらないことに、三限目の休み時間になってようやく気づいたらしい山下が、一気に捲し立てる。

「兄貴は今日学校には来ないよ。陽毬のとこ」

 陽毬って妹なんだけど。と付け足そうと思ったが、口を開くことが面倒になってやめた。心配して声を掛けてくれる山下には申し訳ないけれど、そっとしておいてほしい気分だった。それに、たとえ今日学校に冠葉が居たとしても、連れて帰ってもらうなんてことは、晶馬は絶対に嫌だった。

「いやー、熱あるだろこれ!家帰ったほうがいいって!」

 額に伸ばされた手を振り払う気力は今の晶馬にはなく、されるがままの状態で、それでも小さく首を横に降った。

「いや、大丈夫だから。ごめん山下、ちょっと寝てもいい?」

 柔らかい口調で、しかし有無を言わせずに一言だけ伝えると、そのまま顔を机に伸ばされた腕の中に埋めてしまう。山下がまだ何か言っているような気がしたけれど、晶馬の耳は上手く聞き取ることが出来なくて、そのまま残りの休み時間、少しだけ眠りについた。
 大丈夫、少し眠れば治るから。だからいつもと、同じでいい。授業さえ乗り切ればなんとかなる。

 

 


 結局晶馬は、ふらふらと頼りない体を精一杯の気合で保って、今日一日の学校の授業をなんとか成し遂げた。学校が終わる頃にはもう頭が朦朧としていたけれど、晶馬と同じく荻窪に住む山下に付き添ってもらい、なんとか家にも辿り着くことができた。
 とりあえず、一日の内の半分を無事にこなすことが出来て、晶馬は少しだけホッとする。それでも、やらなければならないことが全て終わった訳ではない。
 夕方には惜しみなく薄赤い日差しが差し込むくせに、その割には肌寒い我が家で、あまり原因を考えたくはない寒気を凌ぐために、いつもより少しだけ厚着をした。庭を見ると、今朝は頑張って早起きをしてくれた冠葉が干した洗濯物が揺れている。早く取り込まないと、湿ってしまう。洗濯物の取り込みも畳むことも冠葉がやってくれると言っていたけれど、今日は自分でやってしまおう。そうしないと、すぐにでも横になって休んでしまいそうだ。
 ふらふらする足を叱咤しながら、なんとか二人分の少ない洗濯物を取り込んでしまう。早く畳んでしまわなければ。早くしないと冠葉が返ってきてしまう。早く夕飯の用意をしなければ。早く掃除もしなければ。早く、早く。
 ―――それなのに、思考が、回らない。

 ああ、もう、駄目かもしれない。
 一日中太陽の光を浴びた洗濯物は、とてもいい匂いがする。洗濯物にうずくまるようにして、晶馬は薄く、目を閉じた。



 

*****

 

 

 陽毬の病院から帰ってきた冠葉の目に飛びこんできたものは、洗濯物を抱えながら小さくうずくまって寝ている晶馬の姿だった。何やってんだ?と小さく一人で呟いて、数日前ちゃぶ台に突っ伏して寝ていた晶馬を起こした時のように、軽く叩いて起こそうとする。そこでようやく、冠葉は異変に気がついた。
 顔が赤くて、呼吸が荒い。
 苦しそうな表情を浮かべる晶馬の額に手をやると、案の定、信じられないような熱さが掌に伝わった。

「ったく、本当に何やってんだよ」

 苦虫を噛み潰したような表情で、今度は少し大きめに呟いた。散らばる洗濯物の山と、それを握りしめる晶馬を見やる。どうせまた、大したことないから、とか自分に言い聞かせながら、一人で家事をこなそうとしていたのだろう。

「あ、兄貴。おかえり」

 目が覚めてしまったらしい晶馬が、額に当てられたままだった冠葉の手に少しだけ動揺し、軽く手を押し退けた。嫌な夢でも見ていたのだろうか。荒い呼吸は、熱だけのせいではなさそうだ。

「ごめん、いろいろちゃんと、終わらせるから」

 そう言って、晶馬は立ち上がった。足はふらふらで、きっと立っているだけで精一杯なはずだというのに。
 このまま冠葉が何も言わなかったら、晶馬は一体どこまでやり遂げるつもりなのだろう。

「いいから寝てろって、熱あるんだろ。布団引いてやるから」
「いい、大丈夫」

 晶馬の言葉は綺麗に無視して、ちゃぶ台と洗濯物を押し退け、布団を引くスペースを作る。押入れから一式分の布団を引っ張り出すと、いつもより埃が立たないように気をつけながら、布団をひいた。

「何が大丈夫だよ。ほら、布団」
「ほんとに、いいから」

 だんだんと悲痛さを増す声色に、冠葉は顔をしかめた。晶馬がこんなにも頑なに断る理由は、冠葉だってよく、知っている。

 どうせ、嫌な夢しか見ないから。
 それに何かしてないと、嫌なことばっか、考えるし。
 だから、寝なくていい。

 小さく小さく呟いた声は、薄暗くなり始めた部屋の中に、吸い込まれて消えた。そう、晶馬がこんなにも断る理由なんて、冠葉にも痛いほどよくわかっているのだ。きっと自分が風邪を引いたときは、こういう風に晶馬を困らせているのだろうな、と思う。結局のところ、二人は所詮、双子なのだ。

「いいわけないだろ、風邪長引かせて陽毬に移す気かよ。風邪治るまで陽毬の病院には行くなよ」

 げんなりといった調子で言い捨てると、晶馬を無理やり布団に押しやった。陽毬の名前を出したからか、晶馬はもう抵抗することには諦めたようで、大人しく布団に入った。そして長いため息を吐く。

「わかってるよ、陽毬にはしばらく会いに行かない」
「陽毬に会いたかったら、早く風邪治すんだな」
「僕だって別に、風邪、治したくないわけじゃ、ないよ」

 言いながら、晶馬はだんだんと微睡みつつあるようだった。ぼそぼそと喋る声は小さくなって、やがて消えてゆく。どんなに抵抗しようと、高熱の体が欲する睡眠を、拒み続けるのは至難の技なのだろう。

 冠葉は、眠りに落ちた晶馬を見やる。きっとまた、嫌な夢をたくさん見てしまうのだろう。

 だからせめて、今日だけは。
 晶馬の目が覚めるときまで、側にいてあげよう。
 自分が風邪を引いたときに、晶馬がいつも、側にいてくれるように。

 

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