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輪るピングドラムの二次創作テキストブログ。 冠晶中心に晶馬総受け。
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2011/11/21 (Mon)                  退屈しのぎ『Tue.心のずっと奥のほう』
退屈しのぎ・ふたつめ。
晶ちゃん怖い子で山下がただかわいそう。

つづきから!

「たっかくら弟!しょーうまっ!」
 
昼休み開始の合図とともに、晶馬に飛びつくように抱きついた山下を迎えたのは、それはそれは冷たい晶馬の視線だった。
 
「………」
「………、えっと、晶馬?」
 
無言で冷ややかな視線を浴びせられ、そして何事もなかったかのように弁当の用意を始めた晶馬を見て、山下は自分が何か大きな間違いを犯したらしいことに気がついた。
しかし自分が一体何をしたと言うのだろう。いつものように、一緒に弁当を食べようと思っただけなのだが。
 
「手。どけてくれない?」
 
顔も合わせず冷ややかに告げる。よく知っている相手だというのに、山下はなんだかよくわからないがとにかく恐ろしいものを感じ、大人しく「はい」と返事をして手を離した。
とりあえず確かであることは、晶馬は機嫌がすこぶる悪いらしい。しかも、山下がこれまでに見たことがない位、ものすごく。
普段温厚な奴ほど怒ると怖いっていうのは本当なんだな、とか、現実逃避よろしくどうでもいいことを考えながら、それでも山下は晶馬の隣の席を陣とった。昼休み、晶馬と一緒に弁当を食べる時間が、山下にとって毎日の密かな楽しみなのである。
 
「えぇっと、晶馬…くん?」
 
何をそんなに怒っていらっしゃるんですか、と言いたかったけれど、声になる前に腹の奥に飲み込んだ。何故か律儀に、名前の後に“くん”まで付けてしまった。
 
「何」
 
晶馬は相変わらず、こちらを見ない。普段よりも何トーンか低めの声を、山下はこれまで聞いたことがなかった。
 
「えっと……あ!今日、なんで双子揃って遅刻してきたんだよ?兄貴はともかく、お前が遅刻するなんて珍しいよな!」
 
しどろもどろになりながらも咄嗟に出てきた苦し紛れの会話は、しかし運悪く地雷を踏んでしまったらしい。
 
「さぁ、僕は遅刻するつもりなんて全く無かったんだけど」
「…はぁ」
「兄貴に聞いてみれば」
 
がすっ。
“兄貴”という言葉を発すると同時に、高倉弟の持つフォークが可愛らしいタコさんウィンナーに突き刺さった。
 
どうしてだろう。
ただのフォークが、とても恐ろしい凶器に見える。
 
「……冠葉と喧嘩してんのか?」
「別に、喧嘩なんてしてない」
 
可愛いタコさんの成れの果てを呆然とする思いで見つめながら、山下は悟った。教室に、冠葉の姿が無い。いつもなら、山下が晶馬に飛びついたあたりで、割って入ってくるというのに。自分は体良く、冠葉に双子の弟を押し付けられたのかもしれない。
晶馬の扱いは、やはり双子の兄の方が慣れているらしい。
 
しかし、これは滅多にない晶馬と二人きりという状況である。たとえその晶馬が、いつもよりおどろおどろしい雰囲気であったとしても。
持ち前のポジティブ精神を盛大に発揮した山下は、昼休みのこの状況を、又とないチャンスとして楽しむことにした。
それにしても、高倉兄はどうやってここまで、普段は温厚な晶馬を怒らせたのだろうか。
 
 
 
 
 
*****
 
 
 
 
 
なんとなくこれから起こることの予想がついて、玄関の扉に手をかけたまま、冠葉は盛大なため息を吐いた。
一体何がどうなって、ここまで事態が拗れてしまったのだろう。嫌、悪いのは自分であることは分かりきっているのだが。
学校にいる間は上手く晶馬を避けることが出来るが、それでも夜には家に帰らない訳にはいかない。昨日と違い、明々と灯りがついた我が家を見やり、冠葉はもう一度大きなため息を吐くと、意を決して玄関の扉を開けた。
 
「……ただいま」
 
意図せず小さくなってしまった声に、返事はない。その代わりに、奥の方から小さくくしゃみをする音が聞こえてきた。玄関を抜けた位置にある台所から鍋の煮える音を聞いて、冠葉は本日何度目かのため息を吐いた。そうか、晶馬は台所にいるのか。どうやら避けては通れないらしい。
 
「晶馬、まだ怒ってんのかよ。だから、俺が悪かったって」
 
暖簾をくぐった先に見えた双子の弟の雰囲気はやはりピリリとしていて、少しだけ怖気づきながらとりあえず声をかけた。
 
「別に。昨日あれだけ言っておきながら朝起きるの遅くなって洗濯出来なくて、しかもバタバタしたせいでゴミ出しもしなかったことなんてもう怒ってないよ」
 
だんっという音と共にキャベツの芯はあっけなく切り落とされ、流し台の方へコロコロと転がっていった。
うちの弟は、どうして本気で怒るとこんなにも怖いのだろう。
 
「だから悪かったって言ってんだろ」
「いいよもう、兄貴の言うことなんて信じられないね」
 
あっちへ行ってて、邪魔だから。取り付く島もない様子に、冠葉は頭を抱えたくなった。本当に、一体何をそんなに怒っているのだろう。勿論自分が悪いということはとてもよくわかっているけれど、晶馬がそれだけでこんなに怒るとは思えなかった。
 
「顔」
「……へ?」
 
これ以上何か言っても無駄だと思い、大人しく居間で夕飯を待とうと部屋着に着替えようとしていた冠葉に、台所の方から唐突に意味がわからない単語が飛んできた。
 
「顔、少し腫れたんじゃないの。結構強くはたかれてたから」
「ああ」
 
ようやく冠葉は合点がいった。朝、それでなくとも遅刻しそうだった時に、運悪く前に付き合っていた女と鉢合わせしてしまった。その女は冠葉に未練があるようだったけれど、冠葉はもうその女の名前も思い出せなかったから、そう伝えたらはたかれた。そしてさらに運が悪いことに、それは晶馬も一緒にいる時の出来事だった。それで結局、学校には二人揃って遅刻してしまったのだ。
 
「だからお前は先に行ってろって言ったじゃねぇか。それに、あんなのいつものことだろ」
 
第一、晶馬に言われるまで、冠葉はそのことをすっかり忘れていたのだ。
 
「そうじゃなくて」
 
今度は晶馬が、小さく、はぁっとため息を吐く。どうやら冠葉の返事はお気に召さなかったらしい。
 
そうじゃなくて。
兄貴があんまり、自分のこと大事にしないからだろ。
 
さっきのため息よりも小さな声は、おそらく冠葉に伝えるためではなかったけれど、それでもしっかりと、冠葉の耳にも届いてしまった。
 
ああ、なんだ。こいつ、そんなことであんなに怒ってたのか。
冠葉がもやもやとした感情を発散したくて女遊びをしていることを、どうやら晶馬は気づいていたらしい。そしてそれが、半ば自暴自棄になってやっているということも。
 
いまだにむすっとしている晶馬は、だいたい兄貴は女の子の気持ちも考えないで、やら何やらブツブツと文句を口にしている。数分前のため息とは随分と意味合いが異なるため息を一つ、冠葉はついた。晶馬の元に寄ると、頭を軽くぽんっと叩く。
冠葉はもう、降参である。喧嘩はもう終わりにしよう。
ぽんっと叩く手はそのままに、冠葉は家に帰ってきたときから分かりきっていることを、わざとらしく軽い調子で晶馬に尋ねた。
 
「で、今日の晩飯何?」
「~~~~ああもうっ!ロールキャベツだよ!」
 
わかってんだろ!と続いた言葉を封じ込めるように、頭に乗せていた手で、晶馬のあたまをわしわしと撫でた。
うちの弟はどうして、こんなにさらりと可愛いことを言ってのけるのだろう。
 

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